連続ブログ小説(第8回)
2016.04.26 Tuesday
「え?電話線が・・?」
この雪深い洋館に閉じ込められたこと自体が
なにかたちの悪い冗談のようでもあった彼は間の抜けた声をあげる。
雪はますます激しく降り、殆ど前も見えないくらいだった。
街全体が冷凍された死体のように絶望的に固く凍りついていた。
「しかし、車は故障、電話は通じない。おまけに激しい吹雪によって閉じ込められた密室。
これじゃまるで小説じゃないか!」
ヒステリックな口調で言いながら、彼は何かをまともに考えようとすると、
やわらかな万力で締め上げられるみたいに頭が鈍く痛んだ。
そして彼は彼なりに混乱し、疲れていた。
それでもあたかも敗残部隊を再編成するように、自分の中に残っている集中力を−太鼓もラッパもなしにひとつにかき集めた。
彼は何度かため息をつく。
名前もない涸れた谷を気まぐれに吹き抜ける風のように、あてもなくうつろなため息だった
「そういえばこの館にはわたしたちの他に誰もいないのかしら」
彼のため息を察したかのように彼女が言うが、
何か音がしてもそれはあっとういう間に痕跡ひとつ残さず静けさの中に吸い込まれてしまった。
家の回りに何千人もの透明な沈黙男がいて、透明な無音掃除機でかたっぱしから音を吸い取っているような気がした。
何を言えばいいのかわからなかったので、彼は黙っていた。
広々としたフライパンに新しい油を敷いたときのような沈黙がしばらくそこにあった。
そんなことをあれこれと考えているうちに僕はひどく眠くなってきた。
それも普通の眠さではない。それは暴力的と言ってもいいくらい激しい眠気だった。
誰かが無抵抗な人間からその着衣を剥ぎ取るみたいに、眠りが彼から覚めた意識を剥ぎ取ろうとしているのだ。
何かを考えるには彼の頭は疲れすぎていたが、かといって眠ることもできない。
彼の体と精神の殆どの部分は眠りを希求していた。それなのに頭の一部が固くこわばったまま頑なに眠ることを拒否して、
そのせいで神経がいやにたかぶっていた。
それはちょうど猛烈なスピードで走る特急列車の窓から駅名表示を読み取ろうとするときの苛立たしさに似ていた。
「それもそうだ。ここでじっとしている訳にもいかないし。」
彼は口元に楽しげな微笑みを浮かべていた。
ついさっき何かとても愉快な冗談を聞いたばかりというような自然な微笑みだった。
素敵な微笑みだ。まるで鬱蒼とした森の中を長い時間散歩していて、突然明るく開けた空き地に出たときのような微笑みだ。
彼女はとなりに来て、犬の歯並びを点検するときのような目つきで彼の顔を見る。
その時だった。
全速力で走ってくる無慈悲な機関車に正面から衝突するようにそれは唐突におとずれる。
まるで誰かが巨大なロースト・ビーフをのっぺりとした壁に思いきり投げつけたときの音のようだった。
扁平で湿り気があって、しかも有無を言わせぬ決意のようなものがこめられた音。
「え・・!?」
(続く)
微かに鳴り響くピアノの音をたよりに薄暗い通路を進む中、巨大な大広間に辿りつくサトコとケンタロウ。
そこではセルゲイ・ラフマニノフみたいな深刻な顔をした謎の老人が、
グランド・ピアノに向かった黙々とスタンダード・ナンバーを弾いていた。
老人は30年前に起こった「ある事件」を静かに語り出す。
雪山に囲まれたこの古びた洋館をめぐる因縁とは果たして。
同じ顔をした六つ子たち。2人の大男と黒づくめの恰好で統一された4人の女。
重要な鍵を握る赤いセーターを肩に巻いた細長い中年男性の目的とは。
そしていよいよ起こる第一の惨劇。
(次回連載予定 は 2019.8.24 です)
RYAN MCGINLEY
2016.04.26 Tuesday
先日友人に誘われ、待望のMCGINLEY国内初単独個展 "BODY LOUD!"を観てきました。
500枚のポートレートで構成された<イヤーブック>はかなりの迫力でした。
一部ですがご紹介します。
https://www.operacity.jp/ag/exh187/
haru
500枚のポートレートで構成された<イヤーブック>はかなりの迫力でした。
一部ですがご紹介します。
https://www.operacity.jp/ag/exh187/
haru
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